「子どもが生まれたら犬を飼いなさい」――そんな古いことわざがあります。子どもと犬がいっしょに育つ暮らしには、たしかに心ひかれるものがあります。犬をそっとなでる小さな手、追いかけっこの笑い声、寄りそって眠るふたりの姿。けれども、その「仲のよさ」は、相性や運まかせで自然に生まれるわけではありません。犬の気持ちを家族みんなで読み、犬に逃げ場を用意し、”安全”をていねいに設計してはじめて、子どもと犬の信頼は育っていきます。
この記事は、テーマを「子どもと犬」だけにしぼってお話しします。前半では、子どもが犬から受け取るもの――心の育ち、絆、体への影響、そして「言葉の通じない相手の気持ちを感じ取る力」――を、研究の一次情報にもとづいて整理します。後半では、いちばん心配な「かみつき」を防ぐための安全の設計を、獣医師会や小児科学会の情報からお伝えします。犬の行動やしつけの土台は犬のしつけ入門にもまとめています。なお、お子さんの体調やアレルギー、発達について気になることは小児科の医師に、犬の健康や行動については獣医師にご相談ください。
「仲よし」は運でなく、設計でつくる
まず、この記事の土台になる考え方からお話しします。ここが、ほかの多くの情報と違うところです。
同じ部屋に置くだけでは、仲よくならない
「子どもと犬は、きっと仲よくなる」と、なんとなく期待して、同じ空間でいっしょに過ごさせる――これは、実はいちばん危うい入り方です。子どもは、犬の気持ちを最初から読めるわけではありません。犬のほうも、子どもの予測できない動きや大きな声に、とまどうことがあります。仲のよさは、いっしょに過ごした「結果」として育つものであって、はじめから備わっている「出発点」ではありません。だからこそ、大人が関わり方を設計することが要ります。この記事でいう「設計」とは、むずかしいことではなく、犬と子どものあいだに、安全と安心のしくみを先回りして用意しておく、という意味です。
カギは二つ ― 犬の”声”を読む/逃げ場を用意する
安全で幸せな関係をつくる工夫は、つきつめると二つになります。ひとつは、犬が出す小さな「声」――体のこわばりや、目をそらすしぐさ、口もとをなめる動きといった早期のサイン――を、家族みんなで読めるようになること。もうひとつは、犬がつらくなったときに、いつでも逃げこめる場所と、「その場を離れる」という選択肢を、あらかじめ用意しておくことです。この二つがそろうと、「そばで見張る」だけの受け身の安全から、「困りごとが起きる前に防ぐ」設計された安全へと変わります。この記事は、その二つを軸に組み立てています。
この記事のすすめ方
ここから先は、まず子どもが犬とのふれあいから受け取るもの(心の育ち・絆・体)を見て、次にこの記事の芯である「感じ取る力」の育ち方を、そして後半で、かみつきを防ぐ安全の設計と、年齢に合わせた関わり方をお話しします。どれも、板橋区のような集合住宅の多い街での、ふつうの家庭の暮らしを想定してまとめています。
子どもが犬から受け取るもの ― 心の育ち
犬といっしょに育つことは、子どもの心にどんな影響があるのか。ここは断定を避けて、研究でわかっていることと、まだわかっていないことを、正直に見ていきます。
自己肯定感・孤独感・社会性との「関連」
子どもとペットの関わりについては、たくさんの研究を集めて整理した系統的レビュー(Purewalら, 2017)があります。このレビューは、子どものころにペットを飼うことが、自己肯定感の高さや孤独感の少なさといった、心の健康の面と関連していた、としています。さらに、社会的な力や、人とのつながり、遊びをつうじた交流の広がりとも関連がみられた、と報告しています。犬の世話や、いっしょに過ごす時間をとおして、子どもが人との関わり方を少しずつ身につけていく――そんな姿がうかがえます。
責任感と、生活のリズム
ごはんをあげる、水をかえる、散歩にいっしょに行く。犬の世話には、毎日決まってやるべきことがあります。子どもがその一部をになうと、「自分が世話をしないと、この子は困る」という実感がわき、責任感を育てるきっかけになります。また、朝は散歩、夜は決まった時間に落ち着く、という犬の生活リズムは、いっしょに暮らす子どもの生活リズムをととのえることにもつながります。犬という「待ったなしの相手」がいることで、家族の時間に、自然とめりはりが生まれます。
ただし「飼えば必ずこうなる」ではない
ここで大切なのは、これらが「関連」であって、「犬を飼えば必ずそうなる」という因果の証明ではない、という点です。先ほどのレビュー自身も、質の高い長期的な研究はまだ少なく、さまざまな条件をそろえた研究が必要だ、と限界をはっきり述べています。ですから、教育の効果を当てこんで犬を迎える、という入り方はおすすめしません。犬は、家族として迎え、その一生に責任をもつ相手です。心の育ちは、そのうえで「あとからついてくるもの」として受け取るほうが、無理がありません。
絆と体の研究 ― オキシトシンとアレルギー
心の面だけでなく、犬との暮らしは、家族の「絆」や、子どもの「体」にもふれる研究があります。ここも、わかっている範囲を、射程を守って正確に見ていきます。
見つめ合いと、オキシトシン
犬と人の絆については、日本の研究チームによるナガサワらの研究(Science, 2015)がよく知られています。この研究は、犬と飼い主が見つめ合うと、双方でオキシトシン――絆や安心に関わるホルモン――が高まる、という正のループがあることを示唆しました。同じことはオオカミでは起きず、犬に特有の反応でした。ここで正確にお伝えしたいのは、この研究の対象が「飼い主と犬」であって、子どもを対象にしたものではない、という点です。ですから「子どもと犬でも同じように上がる」と言い切ることはできません。それでも、犬という動物が、人との触れ合いや眼差しをつうじて絆を結ぶ生きものであることを、研究は裏づけています。子どもがやさしくなで、静かに寄りそう時間は、その絆を育てる土台になります。
乳児期の犬との暮らしと、アレルギー
体の面では、オウンビーらの研究(JAMA, 2002)が知られています。この研究は、生まれてから1年のあいだに2頭以上の犬や猫といっしょに暮らした子どもは、6〜7歳の時点で、複数のアレルゲンへのアレルギー反応が出にくいという関連がみられた、と報告しています。ただし、これも「関連」であって、「犬を飼えばアレルギーにならない」という保証ではありません。アレルギーの体質や発症には、多くの要因が関わります。すでに犬アレルギーがある場合や、お子さんのアレルギーが心配な場合は、この記事の情報だけで判断せず、小児科の医師にご相談ください。
衛生は、ふつうの心がけで足りる
犬と子どもが同じ家で暮らすうえで、衛生も気になるところです。とはいえ、むずかしく考える必要はありません。犬にさわったら手を洗う、犬の食器と人の食器は分けて洗う、排せつ物はすばやく片づける、犬に子どもの口もとをなめさせすぎない――こうした、ふつうの心がけで足ります。特定の菌の名前をならべて不安をふくらませるより、日々の手洗いを家族の習慣にするほうが、ずっと役に立ちます。気になる症状があるときは、小児科や獣医師に相談してください。
言葉の通じない相手の気持ちを感じ取る力
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。子どもと犬のふれあいがもつ、いちばん深い価値が、ここにあります。そして、この力は、メリットと安全を一本につなぐ軸でもあります。
相手の視点に立つ力が育つ
言葉の通じない相手と暮らすということは、「言わなくても察する」練習の連続です。犬は、しっぽの動き、耳の向き、体のこわばり、距離のとり方で、「いまはうれしい」「そっとしてほしい」という気持ちを表します。子どもは、その小さなサインを読みとろうとするなかで、「相手の立場になって想像する力」を育てていきます。先ほどのPurewalらのレビューも、子どものペット飼育が、相手の視点に立つ力(perspective-taking)や知的な発達と関連していた、としています。言葉のいらないやりとりだからこそ、育つものがあるのです。これは、人どうしの思いやりにもつながっていく、大切な土台です。
でも、子どもは犬の気持ちを「誤読」する
とはいえ、この「感じ取る力」は、放っておいて自然に育つものではありません。むしろ子どもは、犬の気持ちを取りちがえることがわかっています。メインツらの研究(Frontiers in Veterinary Science, 2018)は、犬の表情を見せられた子どもが、とても怒っている犬を「友好的で、近づいても大丈夫」と取りちがえることが多い、と報告しています。歯をむいて唸っている犬の写真を見て、「この子はうれしくて、おもしろい声を出しているの」と答えた子どももいました。人の笑顔と、犬が歯をむく攻撃のサインが、見た目に似ているためです。この「誤読」こそ、かみつき事故の入口になります。だからこそ、子ども任せにせず、大人が関わることが要ります。
だから、家族で”翻訳”して教える
子どもが犬のサインを誤読するなら、大人がそれを「翻訳」して教えることが要ります。同じメインツらの研究は、動画などで犬のストレスのサインを教えると、子どもも大人も理解が大きく良くなり、3歳の子どもでも、だんだん強まっていく不安のサインの意味を学べた、と報告しています。つまり、感じ取る力は「育てられる」のです。「いま、この子は耳をうしろにたおして、目をそらしているね。これは”そっとしてほしい”のサインだよ」――こんなふうに、日々のなかで犬の気持ちを言葉にしてあげると、子どもは少しずつ読めるようになります。この積み重ねが、思いやりと安全を同時に育てます。犬の早期サインの読み方は、犬のカーミングシグナルでくわしくお話ししています。
だから”安全”も設計する ― かみつきを防ぐ
ここから後半は、安全の話です。かみつきは、子どもと犬の暮らしで、いちばん心配なことです。数字と、専門機関の指針から、防ぎ方を具体的に見ていきます。
咬傷の半分は子ども ― しかも”知っている犬”
アメリカのデータですが、米国獣医師会(AVMA)は、犬の咬傷被害のおよそ半分が子どもだ、としています。米国小児科学会(AAP)も、子どもは咬傷のもっとも多い被害者で、頭・顔・首という重いけがになりやすい、と述べています。そして見落とされがちなのが、咬む相手の多くが「知らない犬」ではなく、家族の犬や、知っている犬だという点です。AAPは、家族の犬でも、知っている犬でも、「しつけができている」と言われた犬でも、小さな子どもと犬を二人きりにしてはいけない、どんな犬でも咬むことがある、とはっきり述べています。「うちの子にかぎって」は、いちばん危うい思いこみです。
「見張る」でなく、「能動的に監督する」
「ちゃんと見ていたのに」という事故は、少なくありません。同じ部屋にいても、スマートフォンを見ていたり、家事に手をとられていたりすれば、それは「そばにいる」だけで、「監督している」ことにはなりません。AVMAは、どんなにお行儀のよい子ども・犬であっても、子どもが犬のそばにいるときはつねに見守るように、としています。大切なのは、犬と子どものやりとりから目を離さず、犬が嫌がるサインを見せたら、事態が悪くなる前に、大人があいだに入ることです。これが「能動的な監督」です。そして、ほんの少しでも二人だけにする状況をつくらない――これが、いちばん確実な予防になります。
叩く・怒鳴るしつけは、逆効果
「咬んだら強く叱れば直る」というのは、よくある誤解で、むしろ逆効果です。米国獣医動物行動学会(AVSAB)は、あらゆる犬のトレーニングで、ごほうびにもとづく方法を使うことを支持する証拠がある、としています。叩いたり怒鳴ったりして抑えこもうとすると、犬は「子どもが近づく」ことと「嫌なことが起きる」ことを結びつけてしまい、子どもへの警戒を、かえって強めることがあります。犬に「子ども=よいことが起きる」という結びつきを育てるほうが、ずっと安全です。噛みや甘噛みへの向き合い方は犬の甘噛み・噛み癖に、しつけの土台は犬のしつけの手法にまとめています。
子どもと犬の間に”逃げ場と選択肢”をつくる
安全の設計の、もうひとつの柱が「環境」です。犬に逃げ場と選択肢を用意することは、犬を守ると同時に、子どもを守ります。
犬の”安全基地” ― 子どもが入らない場所
犬には、家のなかに「ここにいれば、だれにもじゃまされない」という安全基地が要ります。クレートやサークル、ベッドなど、犬が落ち着ける場所を決め、そこには子どもを入らせない、というルールを家族で共有します。大切なのは、この場所を「閉じこめる罰の場所」にしないことです。犬が自分から逃げこめる、安心の場所にします。犬が自分でその場を離れて休める――この「選択肢」があるだけで、追いつめられて咬む、という事故が大きく減ります。逃げ場のない犬ほど、最後の手段としてサインが咬みつきに変わりやすいからです。
食事中・睡眠中・おもちゃは、そっとしておく
AAPは、寝ている犬、食べている犬、子犬の世話をしている犬を、じゃましてはいけない、こうした状況の犬は攻撃的な反応を返しやすい、と注意しています。食べているごはんやおやつ、大事にしているおもちゃに、子どもの手が伸びる場面は、とくに危険です。「犬が食べているときは近づかない」「犬のおもちゃは取り上げない」――このルールを、小さいうちから子どもにくり返し伝えます。犬が安心してごはんを食べられるよう、食事の場所そのものを、子どもの動線から離しておくのも有効です。
しきりで、距離を「選べる」ように
犬と子どもが、いつでもぴったり一緒にいる必要はありません。ベビーゲートや室内のしきりを使って、犬と子どものエリアをゆるやかに分けておくと、おたがいが「近づく・離れる」を選べるようになります。とくに、大人が家事などで目を離すときは、犬と子どもの空間を分けておくと安心です。AAPは、綱引きやレスリングのような激しい遊びは、咬みつきにつながるため、子どもにさせないように、とも述べています。追いかけっこや抱きつきも、犬を興奮させたり、追いつめたりしがちなので、大人が落ち着いた遊びへ切りかえます。
年齢・発達段階別の関わり方
子どもといっても、赤ちゃんと小学生では、犬との関わり方はまるで違います。発達の段階に合わせて、設計を変えていきます。
赤ちゃんの時期 ― 見る・においを知るまで
赤ちゃんと犬は、基本的に直接ふれあわせる必要はありません。まずは、犬が赤ちゃんの姿を見たり、においをかいだりして、「この小さな存在は、家族だ」と穏やかに知っていく段階です。抱っこした大人が仲立ちになり、犬が落ち着いていられたら、静かにほめます。赤ちゃんと犬を、ほんの少しでも二人きりにしないことが大前提です。赤ちゃんを迎える前に、犬の生活が急に変わりすぎないよう、寝床や散歩の時間を少しずつ整えておくと、犬の不安が減ります。
幼児の時期 ― 力の加減がまだ、誤読も多い
歩きはじめてから就学前くらいまでの時期は、いちばん注意が要ります。子どもはまだ力の加減がむずかしく、犬のしっぽや耳を、悪気なくつかんでしまいます。そして前にお話ししたとおり、犬の気持ちを誤読しやすい時期でもあります。この時期は、子どもが犬にさわるときは、大人が手を添えて、いっしょになで方を教えます。AVMAは、犬にさわる前に飼い主の許可をもらうこと、知らない犬に近づかないことを、子どもに教えるようすすめています。AAPは、犬に近づくときは、まずにおいをかがせてから、顔やしっぽを避けてなで、最初はとくに目をじっと見ないように、としています。
小学生の時期 ― 世話に参加、でも監督は続く
小学生くらいになると、犬の世話の一部をまかせられるようになります。ごはんの用意、いっしょの散歩、ブラッシング――こうした役割は、責任感を育てます。ただし、「もう大きいから大丈夫」と、監督をやめてよいわけではありません。子どもと犬の関わりを見守り、犬のサインを家族で読む姿勢は続けます。犬を迎えてまもない時期の過ごし方は子犬を迎えた最初の1週間、社会化の進め方は子犬の社会化にまとめています。AVSABは、生後3か月までが社会化のもっとも大切な時期で、この時期は社交性が恐怖を上回る、としています。子どもとのよい出会いも、この時期にていねいに重ねると、生涯の土台になります。
板橋の暮らしで、子どもと犬の安全と絆を育てる
ここまでの話を、板橋区のような集合住宅の多い街の暮らしに落としこみます。かぎられた間取りでも、できることはたくさんあります。
マンションだからこそ、逃げ場と動線を設計する
板橋区は、住まいの約78.3パーセントが共同住宅という、集合住宅の多い街です(板橋区の住宅に関する統計)。かぎられた間取りのなかでも、犬の安全基地と、子どもと犬のエリアを分けるくふうはできます。犬のベッドをリビングの隅の落ち着ける場所に置く、子どもの遊ぶスペースと犬の食事の場所を離す、玄関のインターホンに驚いた犬が逃げこめる先を用意する――こうした小さな設計が、事故を防ぎます。マンションでの犬との暮らし全般は、マンションで犬と暮らすにまとめています。
散歩や公園で ― よその子・よその犬への配慮
散歩や公園では、家のなかとは別の配慮が要ります。子どもが、道で出会ったよその犬に、いきなりさわろうとする場面はよくあります。飼い主に許可をもらってから、犬のようすを見て、そっと近づく――これを家族のルールにします。反対に、自分の犬に、よその子どもが急に近づいてくることもあります。愛犬がそれを苦手にしているなら、「いま練習中なので」と、やんわり距離をとってかまいません。おたがいの安全を守るのは、飼い主の役目です。板橋区で人気のトイプードルのような小型犬と子どもの暮らしは、板橋区のトイプードルにもまとめています。
家族の設計を、いっしょに組み立てる
子どもと犬の安全と絆は、家庭ごとに、間取りも、子どもの年齢も、犬の性格も違うため、「わが家の設計」を組み立てることが要ります。K9 Harmonyの出張トレーニングでは、実際のお住まいで、犬の逃げ場のつくり方、子どもへのルールの伝え方、犬のサインの読み方を、ご家族といっしょに組み立てます。気になることがあれば、出張トレーニングのご予約・ご相談から、お気軽にお声がけください。
よくある質問
犬と子どもは、いつから一緒に遊ばせてよいですか
「何歳から」という決まった線はありません。大切なのは年齢そのものより、子どもが犬のサインを読め、力の加減ができ、大人のルールを守れるか、という発達の段階です。どの段階でも共通するのは、小さな子どもと犬を二人きりにしないこと、大人が能動的に監督することです。直接の遊びを急がず、まずは同じ空間で穏やかに過ごせることから始めます。
犬が子どもをなめるのは、愛情表現ですか
なめる行動には、親しみや要求など、いろいろな意味があります。ただ、それがいつも「大丈夫」とはかぎりません。子どもの顔をなめるのは、衛生の面でも、犬が興奮しやすい点でも、さけたい場面です。犬が子どもの顔に近づく前に、大人が穏やかに間をとります。なめること自体をきつく叱るのではなく、別のよい行動へ導くほうが、犬にも子どもにも無理がありません。
子どもが犬をこわがります。どうすればよいですか
こわがる気持ちを、無理に「大丈夫だから」と近づけさせるのは逆効果です。子どもが安心できる距離を保ち、犬が落ち着いているようすを、遠くからいっしょに眺めることから始めます。おやつを、犬から離れた場所で子どもからあげてもらうなど、「犬がいると、よいことがある」という体験を、子どものペースで少しずつ重ねます。犬の側にも逃げ場を用意し、おたがいが追いつめられない設計にします。
犬と子ども、どちらを先に迎えるのがよいですか
どちらが先でも、うまくいっている家庭はたくさんあります。犬が先なら、赤ちゃんを迎える前に、生活の変化に少しずつ慣らし、飛びつきや甘噛みの土台をととのえておきます。子どもが先なら、犬を選ぶ段階から、その犬の性格や運動量が、いまの暮らしに合うかをよく考えます。どちらの場合も、迎えたあとに「感じ取る力」と「安全の設計」を家族で育てていく、という向きは同じです。
まとめ ― 「仲よし」は設計できる
子どもと犬の「いい関係」は、相性や運まかせで生まれるものではありません。犬の小さな声を家族で読み、犬に逃げ場と選択肢を用意し、安全をていねいに設計していく――その積み重ねが、信頼を育てます。研究がみせるように、子どもは犬とのふれあいから、相手の視点に立つ力や、心の育ちを受け取ります。けれども、犬の気持ちを読む力は自然には育たず、大人が「翻訳」して教えるものです。そして、かみつきの多くは、家族の犬との、防げたはずの場面で起きています。「見張る」だけでなく「設計する」――この一歩で、子どもと犬は、もっと安心して育ち合えます。わが家に合った関わり方を組み立てたいときは、出張トレーニングのご予約・ご相談から、お気軽にご相談ください。
この記事の参考情報(一次ソース)
参考にした一次情報・出典(研究・獣医団体・小児科学会・行政)
- Purewal R., Christley R., Kordas K., Joinson C., Meints K., Gee N., Westgarth C.「Companion Animals and Child/Adolescent Development: A Systematic Review of the Evidence」Int J Environ Res Public Health, 2017(PMC)― 子どものペット飼育と発達(自己肯定感・孤独感・相手の視点に立つ力・社会性)の関連。因果は未確定と明記。
- Nagasawa M. ほか「Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds」Science, 2015(PubMed)― 犬と飼い主の見つめ合いとオキシトシンの正のループ。対象は飼い主と犬。
- Ownby D.R., Johnson C.C., Peterson E.L.「Exposure to dogs and cats in the first year of life and risk of allergic sensitization at 6 to 7 years of age」JAMA, 2002(PubMed)― 乳児期の犬猫との同居とアレルギー感作の関連。
- Meints K., Brelsford V., De Keuster T.「Teaching Children and Parents to Understand Dog Signaling」Frontiers in Veterinary Science, 2018(Frontiers)― 子どもの犬サイン誤読と、教育による改善。
- American Veterinary Medical Association「Preventing dog bites」(AVMA)― 咬傷被害の約半分は子ども・監督・許可を得てから触る。
- American Academy of Pediatrics「Dog Bite Prevention Tips」HealthyChildren.org(AAP)― 家族の犬でも二人きりにしない・頭顔首の重傷・食事/睡眠中はそっとしておく。
- American Veterinary Society of Animal Behavior「Humane Dog Training Position Statement」2021(AVSAB)― 報酬にもとづく方法の支持。
- American Veterinary Society of Animal Behavior「Puppy Socialization Position Statement」(AVSAB)― 生後3か月の社会化期と、不十分な社会化のリスク。
- 板橋区「住宅に関する統計(共同住宅78.3%)」(板橋区)― 区内の集合住宅の割合。
※本記事は一般的な情報提供であり、個々の犬やお子さんの診断・治療に代わるものではありません。お子さんの体調・アレルギー・発達で気になる点は小児科の医師に、犬の健康や、強い不安・恐怖・攻撃がある場合は、かかりつけの獣医師または獣医行動科にご相談ください。