「おいで」と呼んでも来ない。ドッグランで捕まらない、散歩中に呼び戻せない——呼び戻し(リコール)は、愛犬の安全に直結する一番大切な合図です。この記事の結論を先にお伝えします。犬が来ないのは「言うことを聞かない性格」だからではありません。多くは「来ると、いいことがない(あるいは嫌なことが起きる)」と学習してしまっているだけです。だからやることは一つ、「来ると得をする」という経験を積み上げ直すことです。
本記事では、来ない理由の切り分けから、”おいで”を壊さない関わり方、静かな室内から始める4段階の練習、効かなくなったときの立て直し、そしてマンション・都市部という日本の現実的な練習場所まで、獣医行動学会やVCA・AKC・Merckなどの一次情報をもとに整理します。飛び出しや拾い食いから愛犬を守る場面でも、呼び戻しは効きます。板橋区で出張ドッグトレーニングを行う立場から、集合住宅で暮らす愛犬とご家族に向けて具体的に書いています。
呼び戻しはなぜ最優先か ―「命を守る最後の砦」
数あるトレーニングのなかで、呼び戻しは特別な位置にあります。玄関のドアが開いて飛び出したとき、リードが手を離れたとき、道に落ちた物を口に入れそうになったとき——「おいで」で戻ってくることが、その子の命を守る最後の砦になるからです。おすわりや待てができなくても暮らしは回りますが、呼び戻しだけは「できるかどうか」が事故と無事の分かれ目になります。そして呼び戻しが確実になるほど、行ける場所も、させてあげられる自由も広がっていきます。たとえば、落ち着いて呼び戻せる子は、ロングラインを長くしての散歩や、囲われた場所での自由時間を安心して楽しめます。呼び戻しは、行動を縛るものではなく、むしろ愛犬の世界を広げる鍵です。飼い主にとっても、いざというときに戻ってくるという安心が、日々の散歩の景色を変えます。
科学が示す答えは「報酬ベース」
呼び戻しをどう教えるか。ここには科学的な結論が出ています。米国獣医動物行動学会(AVSAB)は、現在の科学的根拠に基づき、すべての犬のトレーニングで報酬ベース(正の強化)の方法のみを推奨すると明言しています。痛みや力、精神的・身体的な不快感を用いる嫌悪的な手法は、訓練にも行動の問題にも使うべきではない、という立場です。呼び戻しに限らず、犬のしつけの手法の土台はここに集約されます。
興味深いのは、AVSABが呼び戻しを名指ししている点です。同学会は「呼び戻しの訓練は、飼い主が電気ショックの首輪を使う最も多い理由だ」と指摘したうえで、経験豊富な訓練士が行っても、呼び戻しや追いかけを止める教育において、電気ショックの首輪と報酬ベースの方法とで効果に差は見られなかった、と述べています。つまり、痛みを使わなくても同じ結果に届く、ということです。だからこそ、遠回りに見えても「来ると得」を積み上げる方法が、一番確実で、しかも愛犬との信頼を損ないません。
この「行動の後に良いことが起きると、その行動が増える」という仕組みは、学習理論の基本です。呼び戻しも、特別な才能ではなく、この仕組みの積み重ねで作られます。犬がどう学ぶかの全体像は動物行動学の基礎でも解説しています。
なぜ来ないのか ―「来ない理由」を切り分ける
多くの情報は「来ないのは、来たら嫌なことがあったから」と一つの理由で説明します。それも大きな要因ですが、実際の「来ない」には複数の背景が重なっています。原因が違えば打つ手も変わります。まずは我が子がどれに当てはまるかを切り分けましょう。ここを飛ばして練習量だけ増やしても、空回りしがちです。
①「来ると得」の経験が足りない/②周りの誘惑が飼い主に勝っている
そもそも「来たら、うれしいことがあった」という経験が少なければ、犬にとって「おいで」はただの音です。呼ばれても、来る理由が見当たりません。まずは「おいで」と「良いこと」を結びつける貯金づくりから始めます。
もう一つ、屋外にはにおい、他の犬、走る自転車、落ちている食べ物といった強い誘惑があふれています。飼い主のもとへ戻る価値が、目の前の誘惑に負けている状態です。これは性格の問題ではなく、単に「戻る価値」がまだ足りていないだけです。対処は、次章以降の「来ると得」の作り込みと段階練習になります。誘惑に勝てる報酬(特別なおやつ、思いきり遊ぶ、自由に嗅がせる時間)を用意することが鍵です。
③場所が変わると通じない(般化の不足)/④思春期の揺り戻し
家では完璧なのに公園ではまるでダメ——これはよくある姿で、失敗ではありません。犬は「家のリビングでのおいで」と「公園でのおいで」を別物として学びます。場所や状況が変わっても通じるようにするには、環境を変えて練習を重ねる必要があります(これを般化と呼びます)。人や物に慣れる土台づくりは子犬の社会化とも重なります。
もう一つ、若い犬には思春期の揺り戻しがあります。ある研究では、生後8か月頃の思春期の犬は、飼い主が出す指示への反応が一時的に落ちたと報告されています(他人が出す指示では落ちませんでした)。この研究が測ったのは「おすわり」で、呼び戻しそのものではありません。被験犬も特定の作業犬種が中心のため、そのまま小型犬に当てはめるには限りがあります。それでも「若い時期は指示が通りにくくなる波がある」と知っておくと、この時期に叱って関係を崩さず、淡々と続けられます。時期が過ぎれば、積み上げた練習はちゃんと戻ってきます。
⑤こわがりが背景にある/⑥加齢・難聴など体の変化
来ないのではなく「来られない」子もいます。何かをこわがっていて動けない場合、無理に呼び続けたり叱ったりは逆効果です。VCA動物病院はこわがっている子を叱ったり罰したりしないよう求め、恐怖のサインが強い・最近始まった場合は獣医師に相談し、複数の場面にわたる強い不安には専門的な指導が必要だとしています。こわがりが背景のときは、呼び戻しの練習より先に、安心できる環境づくりが優先されます。
加齢による体の変化も見逃せません。Merck獣医マニュアルは、後天的な難聴の多くが加齢に伴う内耳(蝸牛)の変化から起こり、高齢犬の緩やかな聴力低下が「呼んでも来ない・応じない」につながることがあると述べています。VCAも、聞こえない犬は「呼んでも来られない」ため、放す場合は囲われた場所に限るよう促しています。呼びかけへの反応が急に変わった、片側から呼ぶと気づかない、歩き方や様子に違和感がある——こうした変化が気になるときは、自己判断せず、かかりつけの動物病院(獣医師)に相談してください。しつけの問題と体の問題を切り分けることが、遠回りを防ぎます。
呼び戻しの土台 ―「おいで」を”いいこと専用”の合図にする
練習に入る前に、土台を一つ据えます。「おいで」を、犬にとってまるごとうれしい合図として守ることです。ここが崩れると、どんな練習も積み上がりません。逆に、この一点さえ守れれば、呼び戻しは着実に育ちます。
合図は一つに統一し、来たら3秒以内に報酬
まず、使う言葉を一つに決めます。「おいで」「こい」「カム」が家族でバラバラだと、犬は覚えにくくなります。家族全員で同じ言葉に揃えてください。そして、来てくれたら来た瞬間に——目安は3秒以内に——おやつと笑顔で迎えます。「来た直後にいいことが起きた」という記憶が、次の一歩を作ります。ここで報酬が遅れると、座り直した後や向きを変えた後の行動が強化されてしまい、狙いがぼやけます。距離が近く、気が散らない室内から始めるのがコツです。
“楽しい時間の終わり”に使わない
やってしまいがちな失敗があります。AKC(米国ケネルクラブ)は、「おいで」を”楽しい時間の終わり”のときだけに使うのは典型的な失敗だと指摘しています。公園で「おいで」と呼ぶのがいつもリードを着けて帰るときだけなら、犬は「おいで=楽しいことが終わる合図」と結びつけ、以後 来にくくなる、というのです。爪切りや入浴、叱るときの呼び出しに「おいで」を使うのも同じ理屈です。
ではどうするか。嫌な場面では「おいで」を使わず、飼い主のほうから静かに近づきましょう。爪切りの前も、帰宅のためにリードを着けるときも、こちらから歩み寄ればいい。「おいで」は、うれしいことだけに取っておきます。公園から帰る前にも、リードを着けてから数分いっしょに遊んでから帰る、というひと工夫で「おいで=終わり」の刷り込みを避けられます。
どうしても呼んでから嫌なこと(爪切りや通院)に移りたいときは、順番を工夫します。呼ぶ→来たら報酬→しばらく自由に過ごさせる→そのうえで用事、という間を挟むと、「おいで=すぐ嫌なこと」の直結を避けられます。呼び出しと嫌な出来事を、時間で切り離すイメージです。小さな工夫ですが、積み重ねると「おいで」の価値がしっかり守られます。
4段階で伸ばす練習と、ロングラインで完結するゴール
土台ができたら、難易度を少しずつ上げていきます。AKCは静かで気の散らない環境、たとえば家の中から練習を始め、少しずつ距離を伸ばすよう勧めています。犬は場所ごとに学び直すので、環境を1段ずつ上げるのが近道です。急に難しくして失敗させるより、確実にできる段階を積むほうが、結果的に早く仕上がります。
段階1〜4:室内 → 距離 → 屋外 → 誘惑
- 段階1・静かな室内で短距離:1〜2mの近さで名前を呼び、来たら3秒以内に報酬。この段階では毎回必ず報酬を渡します。1日数回、1回あたり数分の短い練習をくり返します。
- 段階2・距離と場所を広げる:隣の部屋、廊下の端へと少しずつ距離を伸ばします。来なかったら距離を縮めて戻し、必ず成功で練習を終えます。「呼んだのに来なかった」で終わらせないのがコツです。
- 段階3・刺激の少ない屋外へ:静かな時間帯の公園や敷地内など、誘惑の少ない屋外で短距離から。安全確保のためロングライン(長いリード)を着けます。屋外は室内よりぐっと難しくなるので、距離をいったん縮めてやり直す気持ちで。
- 段階4・誘惑のある環境で仕上げる:人や犬、においのある場所で試します。別の場所・別の誘惑でくり返し練習することが欠かせません。誘惑の強さは、犬の様子を見ながら一段ずつ上げます。
各段階では、「呼ぶ → 来る → 3秒以内に報酬」の型を崩さないことが大切です。呼ぶ前に犬がこちらに気づいて向かってきたら、その動きに合わせて明るく声をかけ、来た瞬間に迎えます。反対に、呼んでも動かないときは、しゃがんで手を叩く、後ろに小走りするなど「近づきたくなる」きっかけを足します。決して追いかけないのがポイントです。
屋外で放して大丈夫かの目安は、VCAが分かりやすく示しています。木の上のリス、横切るウサギ、転がるボールといった強い誘惑がある状況でも指示が通る——それが屋外の前提だ、という水準です。ここに届く前は、ロングラインでつながったまま練習を続けます。散歩そのものを落ち着いて歩けることも土台になります。引っぱりが気になる場合は犬の散歩の引っぱりもあわせてご覧ください。
ゴールは「ノーリード」ではなく「ロングラインで完結」
多くの記事は、最終ゴールをドッグランでのノーリードに置きます。ですが日本の住宅街では、そこをゴールにする必要はありません。AKCは、公園のような広く刺激の多い場所ではロングライン(15〜20フィート=約4.5〜6m)を使い、安全と法令順守を保つよう勧めています。ロングラインは、放し飼いにしなくても「離れた距離からの呼び戻し」を安全に練習できる道具です。囲われたドッグランの中でだけノーリードにし、それ以外はロングラインで完結——これが都市部の現実的なゴールです。次の章で、日本の条例に沿った具体的な考え方を見ていきます。
ロングラインの安全な使い方
ロングラインは、たるませて持つのが基本です。ぴんと張った状態は犬を引っぱる合図になり、練習の邪魔になります。綱は事故を防ぐ保険であって、犬を引き寄せる道具ではありません。使うときは、足や体に絡まないよう、地面を引きずる長さと持ち手の位置に気を配ります。人や自転車の多い場所では短く持ち直し、開けた安全な場所で長く伸ばす——場面で長さを調整すると、安全と練習を両立できます。素材は、手が擦れにくい幅のあるタイプが扱いやすく、慣れないうちは5〜6mから始め、扱いに慣れてから長くしていくと、絡まりや転倒を防げます。
呼び戻しを壊す関わりと、壊れた「おいで」の作り直し
ここが競合の情報が最も薄い、そして最も大事なところです。呼び戻しは、良い経験の積み立てで成り立っています。積み立てを一気に取り崩す関わりを避けることが、遠回りに見えて一番の近道です。良かれと思ってやっていることが、実は「おいで」の価値を下げているケースは少なくありません。
「おいで」を一瞬で壊す5つの関わり
- 来たら叱る:時間がかかって来た子を叱ると、「呼ばれて行ったら叱られた」と学びます。AKCは呼んで来た犬を決して罰せず、時間がかかっても必ず褒めるよう求めています。どんなに遅くても、来たこと自体をまず喜びます。
- 「おいで」の後に嫌なこと:帰宅・リード装着・爪切りなど、犬が嫌がることの合図に「おいで」を使うと、価値が下がります。嫌な用事は、こちらから近づいて済ませます。
- 屋外で追いかける:逃げる犬を追いかけると「逃げると追いかけっこが始まる」という別の楽しい遊びに変わります。追うのではなく、しゃがむ・逆方向へ走る、で「戻りたい」を引き出します。
- あらゆる場面で乱発:意味もなく一日中「おいで」を連呼すると、来なくても平気な合図になります。呼ぶのは、来られる場面に絞ります。
- 報酬が遅い・出し惜しむ:来た瞬間ではなく、座り直した後や数秒後に渡すと、狙った行動が強化されません。ごほうびは手元にすぐ出せる状態で。
なぜ一つの悪い経験がここまで効くのか。仕組みはシンプルです。「おいで」の価値は、これまでの良い経験の積み立てで決まります。そこへ「来たら嫌なことがあった」が挟まると、犬は「おいで」を”うれしくないこと”と結びつけ、来にくくなります。だから「壊さない」ことが、練習量を増やすより先に来ます。興奮して飛びついたり突進したりする子は、まず落ち着きを教えることも助けになります(犬の飛びつきもあわせてどうぞ)。つい叱りたくなる場面こそ、こらえどころです。走り去った犬がやっと戻ってきた瞬間に叱れば、次からは戻ること自体をためらいます。腹が立っても、戻ってきた事実をまず褒める。そのうえで、次はもっと近い距離・弱い誘惑からやり直せば、同じ失敗は減っていきます。感情ではなく設計で立て直すのが、遠回りに見えて確実です。
もう効かない「おいで」は、合図を作り直す
すでに「おいで=嫌なこと」と学習してしまい、呼んでも反応しない——そんなときは、汚れた合図を使い続けず、まっさらな新しい合図を作り直すのが確実です。今までの「おいで」はいったん脇に置き、別の言葉(たとえば「カモン」など、これまで悪い経験と結びついていない音)を新しく用意します。この新しい合図は、最初は室内の段階1から、良い経験だけで丁寧に育てます。
作り直しのコツは、報酬の格を上げることです。AKCは緊急用の合図について、専用の言葉は本当に必要なときだけ使い、常に最高価値のごほうびと対にすると説明しています。この考え方は、作り直す合図にもそのまま使えます。新しい合図には、普段は出さない特別なごほうびを結びつけると、古い合図より早く価値が育ちます。並行して、古い「おいで」を嫌な場面に使うのをやめれば、混乱も避けられます。
「家族だけでは合図が壊れた原因が分からない」「作り直し方に自信がない」——そんなときは、出張ドッグトレーニングの体験で、我が子の状況に合わせた立て直し方を一緒に組み立てられます。
維持と”もしも”の備え ― 間欠強化と緊急用リコール
呼び戻しは、できるようになってからの「保ち方」も大切です。ここも多くの情報が触れていない部分です。せっかく育てた呼び戻しを、日々のなかで先細りさせないための設計を見ていきます。
定着したら、毎回から「時々」の報酬へ
覚えたての頃は毎回ごほうびを渡します。安定して来るようになったら、渡し方を変えていきます。VCAは、新しい指示は連続した強化で始め、安定して応じるようになったら間欠的・変動的な割合の強化へ切り替えるとしています。毎回ではなく「時々、しかもいつ出るか分からない」ごほうびのほうが、行動は長続きします。
ここで大事なのは、ごほうびをゼロにするのではなく、出す頻度を予測できない形に変えることです。3回に1回、5回に1回とランダムに当たるようにし、ときどき「特別に良いもの」を混ぜると、張り合いが続きます。おやつを完全にやめると、呼び戻しはやがて薄れていきます。声や笑顔、遊び、自由に嗅がせる時間も、立派なごほうびとして使えます。毎回同じおやつだと、犬は次第に飽きます。ふだんは普通のおやつ、時々ゆで鶏やチーズのような特別なごほうび、と格に差をつけると、「次は当たりが出るぞ」という期待が呼び戻しを支えます。たまの大当たりが、行動を長続きさせます。散歩や食事の前など、犬が「次にいいことが起きる」と分かっている場面で呼ぶのも、成功を積みやすい方法です。
日常の「おいで」とは別に、緊急用リコールを育てる
もう一つ、”もしも”のための備えを用意します。日常の「おいで」とは別に、本当に危ないときだけの緊急用の合図を育てておく方法です。AKCは、追いかけモードの犬を止める確率を上げるために緊急用のキューを別に用意し、専用の言葉は必要なときだけ使い、常に最高価値のごほうびと対にすることを勧めています。
この合図は普段は使わず、使ったときは必ず最上級のごほうびで応える。そうやって「この言葉が鳴ったら、最高のことが起きる」を守り続けると、いざというときに効きます。たとえば、うっかり拾い食いをしそうな瞬間や、リードが外れて車道へ向かいかけたときこそ、この緊急用リコールの出番です。月に数回、良い状況でだけ練習し、価値を減らさないよう温存しておきましょう。
マンション・都市部で鍛える現実 ― ノーリード禁止と練習場所
ここは、板橋区のような都市部で暮らすご家庭に一番効く章です。多くの記事は「ドッグランで放して仕上げる」を前提にしますが、日本の住宅街ではそもそも放せる場所が限られます。まずは前提を、現実に合わせて整えましょう。
東京都では犬の「係留」が原則。ノーリードをゴールにしない
東京都の条例では、犬の飼い主に係留(つなぐ・囲う)の義務があります。「動物の愛護及び管理に関する条例」第九条は、犬を逸走させないため、囲いの中で、または綱・鎖で確実につないで飼うことを求めています。ただし但し書きがあり、犬を制御できる人が安全な場所・方法で訓練する場合や、綱・鎖で確実に保持して移動・運動させる場合は、この限りではありません。
つまり、ロングラインで確実に保持しながらの呼び戻し練習は、この範囲に収まります。逆に言えば、囲われた場所以外でのノーリードを最終ゴールに据える必要はありません。安全確保下の練習で、十分に実用的な呼び戻しは作れます。VCAも、車道・道路・遊び場・工事現場の近くでのノーリードは避け、よく訓練された犬でも危険な環境ではリードを着けるべきだとしています。都市部では、これが安全と法の両面で理にかなった前提です。
集合住宅だからこそ、身近な場所を練習に変える
板橋区は住宅の78.3%が共同住宅(平成25年住宅・土地統計調査時点)という、集合住宅中心の街です。庭がなくても、練習場所はすぐそばにあります。まずは家の中の廊下やリビングで段階1〜2を作り込みます。次に、共用廊下やエレベーター前など静かな共用部で、他の居住者への配慮を保ちながら距離を伸ばします。
屋外は、人の少ない時間帯の公園や河川敷でロングラインを使い、段階3〜4へ進みます。囲われたドッグランは、段階4の「誘惑あり」を安全に試せる貴重な場所として活用します。生活動線そのものが、呼び戻しの練習コースになります。マンションでの暮らし方の工夫はマンションで犬と暮らす、板橋区でトイプードルと暮らすご家庭に向けた情報は板橋区のトイプードルもあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
おやつがないと来ません。ごほうびは一生必要ですか?
覚えたての頃は毎回のごほうびが土台になります。安定してきたら、毎回から「時々・予測できないタイミング」へ切り替えます。ごほうびを完全にやめるのではなく、頻度を変えて価値を保つのがコツです。おやつだけでなく、笑顔・声・遊び・自由に嗅がせる時間も立派なごほうびになります。「おいで=良いことが起きる」の関係が続く限り、呼び戻しは保たれます。
家では来るのに、外だと全く来ません。教え方が間違っていますか?
間違いではありません。犬は場所ごとに学び直します。家でできても外は別、というのはごく自然な姿です。誘惑の少ない屋外から、ロングラインを着けて段階をやり直してください。難易度を一つ下げて「成功して終わる」を積むと、外でも通じるようになります。焦って屋外でいきなり試すより、確実な段階に戻すほうが近道です。
呼んでも来ないとき、大声で何度も呼ぶべきですか?
連呼は逆効果です。来ない合図を何度も繰り返すと、「来なくてもいい合図」として定着します。反応しないときは、距離や誘惑の設定が今の実力より難しいサインです。いったん近づく・難易度を下げる・ロングラインでたぐり寄せて成功にする、のいずれかで立て直します。呼びかけへの反応が急に変わった場合は、聞こえ方や体調の変化も含め、かかりつけの動物病院(獣医師)に相談してください。
子犬のうちから始めていいですか?
早く始めるほど、悪い経験の少ないまっさらな状態で「おいで=良いこと」を作れます。子犬のうちは、家の中の短い距離から、遊びの延長として楽しく始めてください。名前を呼んで来たら、たっぷり褒めておやつを渡す。これだけで十分な土台になります。思春期に一時的に反応が落ちても、幼いうちの貯金があれば、崩れずに立て直せます。
まとめ ―「来ると得」を積み上げ直す
呼び戻しは、才能ではなく積み立てです。来ない理由を切り分け、「おいで」をうれしいこと専用の合図として守り、静かな室内から4段階で広げ、壊す関わりを避ける。定着したら間欠強化で保ち、”もしも”のための緊急用リコールを別に育てる。そして日本の都市部では、ノーリードをゴールにせず、ロングラインと身近な場所で完結させる。どれも今日から始められる一歩です。
「うちの子の来ない理由が分からない」「壊れた合図をどう立て直せばいいか一緒に考えたい」——そんなときは、板橋区の出張ドッグトレーニングで、暮らしの動線に合わせた呼び戻しの組み立てをお手伝いします。愛犬の安全を守る最初の一歩を、一緒に踏み出しましょう。
参考にした情報(公的機関・獣医団体・学術)
本記事は、獣医行動学会・獣医療機関・査読論文・行政の一次情報をもとにしています。最新の内容は各公式でご確認ください。診断・治療は獣医師(動物病院)の役割です。気になる症状や違和感があれば、かかりつけの動物病院にご相談ください。
- American Veterinary Society of Animal Behavior『Position Statement on Humane Dog Training』(2021)(参照:2026-07)https://avsab.org/wp-content/uploads/2021/08/AVSAB-Humane-Dog-Training-Position-Statement-2021.pdf
- American Kennel Club『Reliable Recall: Teaching Your Dog to Always Come When Called』(参照:2026-07)https://www.akc.org/expert-advice/training/reliable-recall-train-dogs-to-come-when-called/
- American Kennel Club『Training Your Dog to Come When Called』(参照:2026-07)https://www.akc.org/expert-advice/training/come-when-called/
- American Kennel Club『How to Channel & Control Your Dog’s Prey Drive on Walks』(参照:2026-07)https://www.akc.org/expert-advice/training/channel-control-dog-prey-drive/
- VCA Animal Hospitals『Off-Leash Training for Dogs』(参照:2026-07)https://vcahospitals.com/know-your-pet/off-leash-training-for-dogs
- VCA Animal Hospitals『Using Reinforcement and Rewards to Train Your Pet』(参照:2026-07)https://vcahospitals.com/know-your-pet/using-reinforcement-and-rewards-to-train-your-pet
- VCA Animal Hospitals『Fears, Phobias, and Anxiety in Cats and Dogs』(参照:2026-07)https://vcahospitals.com/know-your-pet/fears-phobias-and-anxiety
- VCA Animal Hospitals『Living with a Deaf Dog』(参照:2026-07)https://vcahospitals.com/know-your-pet/living-with-a-deaf-dog
- Merck Veterinary Manual『Deafness in Dogs』(参照:2026-07)https://www.merckvetmanual.com/dog-owners/ear-disorders-of-dogs/deafness-in-dogs
- Asher L. et al.『Teenage dogs? Evidence for adolescent-phase conflict behaviour…』Biology Letters(2020)(参照:2026-07)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7280042/
- 東京都『動物の愛護及び管理に関する条例』第九条(参照:2026-07)https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101RG00003637.html
- 板橋区『住まいの未来ビジョン2025 住宅白書』(参照:2026-07)https://www.city.itabashi.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/122/attach_90477_11.pdf