犬は、言葉を話さないかわりに、体でたくさんのことを伝えています。あくびをする、口のまわりをなめる、目をそらす――こうしたしぐさは「カーミングシグナル」と呼ばれ、犬が不安や緊張を感じたときに見せるサインとして知られています。ただ、これを「このしぐさは、この意味」という早見表のように覚えても、うまくは読めません。同じあくびでも、眠いときと、緊張しているときがあるからです。大切なのは、サインを一つずつ翻訳することではなく、「いま、この子の不快が積み上がってきている」という状態に気づくことです。
この記事では、カーミングシグナルを「意味当てクイズ」としてではなく、犬のストレスが限界に近づいたことを知らせる”早期警報”として読む見方を、順番に整理します。代表的なサインの見分け方、人のどんな関わりがサインを引き出してしまうのか、サインに気づいたら人はどうすればよいのか、そして、吠えや噛みつきに進む前に間に合わせるこつまでを、獣医行動学の一次情報をもとにお話しします。板橋区に多い集合住宅・共働きの暮らしや、小型犬の目線も後半でまとめます。なお、犬の強い不安やこわがりが続くときは、かかりつけの動物病院や、動物の行動を専門にみる獣医師(獣医行動科)が相談先です。
「サインの意味当てクイズ」をやめる ― カーミングシグナルの正体
まず、カーミングシグナルがどういうもので、そして、どういうものではないのかを整理します。ここを取りちがえると、あとの読み方がぶれてしまうからです。
ルーガスが名づけた「落ち着かせる信号」
「カーミングシグナル」という言葉は、ノルウェーのドッグトレーナー、トゥーリッド・ルーガスが広めた考え方です。あくび、鼻や口をなめる、目や顔をそむける、体をかく、ゆっくり動く――こうしたしぐさを、犬が自分や相手の緊張をやわらげ、いさかいを避けるために見せる「落ち着かせる信号」としてまとめました。犬どうしが、いきなり争わずにすんでいる背景には、こうしたやりとりがあるという見方です。この考え方は、犬のしぐさに目を向けるきっかけとして、広く知られるようになりました。犬の行動を科学的に理解する土台は、犬のしつけ入門にもまとめています。
「辞書」ではない ― 科学の現状は正直に
ここは正直にお伝えします。カーミングシグナルは実務の現場で広く使われていますが、科学的な検証はまだ途中の段階です。初期の研究では、犬どうしのいさかいの場面で、こうしたしぐさのあとに落ち着く様子が観察されています。ただし研究者自身が、それが意識して出している合図なのか、緊張がにじみ出ているだけなのかは、まだ分からないと述べています。ですから「犬の言葉が解読できる」と決めつけるのは正確ではありません。一つのしぐさに一つの意味を当てる「辞書」としてではなく、「この子が不安を感じている手がかり」として受け止めるのが、実際に近い読み方です。犬の行動をめぐる科学の現状は、動物行動学とはでも扱っています。
読むのは「単発の意味」でなく「積み上がった状態」
だからこそ、サインは一つずつ翻訳するものではありません。あくびを一回見たから緊張している、と決めつけるのではなく、「あくびと、舌なめずりと、顔をそむける動きが、この状況で続けて出ている」という重なりで読みます。犬のしぐさは、その場の状況(だれが近づいているか、何が起きているか)とセットで意味が変わります。次の章では、なぜサインを「早期警報」として、積み重なりで読むと役に立つのかを見ていきます。
サインは”早期警報” ― 閾値とトリガーの積み重なり
カーミングシグナルがいちばん役に立つのは、それを「早期警報」として使うときです。犬が不快に耐えられなくなる一歩手前で、体は先にサインを出しています。ここを知っておくと、読む目的がはっきりします。来客への飛びつきも、この「先回り」の考え方でほどけます。くわしくは犬の飛びつきをご覧ください。
反応は段階的に上がる ― 「攻撃のはしご」
犬の反応には、段階があります。英国の獣医行動学者ケンダル・シェパードが示した「攻撃のはしご(Ladder of Aggression)」は、犬が感じるストレスや脅威が強まるにつれて、しぐさが段階的に上がっていく様子を、はしごの図にしたものです。いちばん下の段は、まばたきや鼻をなめるといった、軽い社会的なやりとりへの反応です。それが受け止められないと、顔をそむける、体を低くする、その場から離れようとする、といった段へ上がり、さらにこわばる、うなる、歯をむく、と続き、いちばん上に噛みつきがあります。つまり、あくびや舌なめずりは「まだ下の段」で出ている、いちばん早い警報です。ここで人が気づいて動ければ、上の段まで上がらずにすみます。
トリガーが積み重なると、閾値を越える
もう一つ、知っておくと読みやすくなるのが、ストレスは積み重なるという見方です。アメリカンケネルクラブ(AKC)は、犬が短い時間のうちにいくつもの不安な出来事を続けて経験すると、いっぱいいっぱいになり、ふだんなら気にしない小さなことにも大きく反応することがある、と説明しています。これは、犬の訓練や行動の現場で「トリガー・スタッキング(引き金の積み重なり)」と呼ばれる考え方です。たとえば、朝に来客があり、昼に工事の音が続き、夕方に知らない犬とすれちがった――そんな日は、犬の余裕はもう残り少なくなっています。そこへ最後にインターホンが鳴ると、いつもは平気なはずの音にも、いきなり吠えたり飛びついたりします。一つひとつは小さくても、積み重なって「これ以上は無理」という線(閾値)を越えると、反応があふれ出します。
だから、単発でなく「複数サイン+状況」で読む
この二つ――段階的に上がること、積み重なって越えること――を合わせると、読み方が決まります。サインを一つ見て意味を当てるのではなく、「いくつのサインが、どんな状況で、続けて出ているか」を見ます。サインの数が増え、はっきりしてくるほど、その子のストレスは高いところにあります。落ち着いて見えても、この子は今日すでにいくつもの刺激を受けていないか、と背景も合わせて考えます。たとえば、来客中に、あくびと舌なめずりが立て続けに出て、体が固くなり、視線が出口へ向く――こうしていくつものサインが同じ場面で重なっているときは、その子はすでに、かなり無理をしています。逆に、あくびが一回だけで、体はやわらかく、すぐにいつもの様子に戻るなら、そこまで気に病むことはありません。次の章では、そのストレスを積み上げている引き金のうち、いちばん見落とされやすいもの――人自身の関わり方――を見ていきます。
愛犬にサインを出させている”人の関わり”
サインを読むというと、犬をじっと観察することだ、と受け取られがちです。けれども、犬にサインを出させている引き金が、人自身の何気ないふるまいにあることは、とても多いものです。読むだけでなく、こちらの関わりを変えることが、いちばん効きます。
かがむ・見つめる・頭の上から手 ― 人の何が引き金か
人にとっては愛情表現でも、犬にとっては圧に感じる動きがあります。ドッグトレーナーの解説(Preventive Vet)は、犬の上にかがみこむ、正面からじっと見つめる、頭の上から手をのばす、といった動きは、多くの犬に「立ち向かわれている」「押しかけられている」と受け取られやすい、と説明しています。さらに、速くて急な手や腕の動きは犬をとても不安にさせ、それが見つめることや上からかぶさることと重なると、身を守るための噛みつきの引き金になりうる、としています。犬が、なでようと近づいた手の前であくびをしたり、顔をそむけたりするとき、それは「今の近づき方は、少し苦手です」という早い警報です。
抱っこ・正面からの接近を、犬の側から見直す
抱きしめる、真正面からまっすぐ近づく、というのも、人にとっては自然でも、犬にとっては逃げ場のない状況になりがちです。とくに、知らない人や、その日すでに刺激をたくさん受けた犬に対しては、負担が大きくなります。犬をなでたいときは、正面からではなく体をやや横に向けて、しゃがんで犬から近づいてくるのを待つ、なでるのはあごの下や胸のあたりから、といった配慮で、犬の余裕は変わります。米国獣医動物行動学会(AVSAB)も、犬を扱うときに「じっと見つめる」ことは避けるべきものとして挙げています。犬の側から見て、どう映っているかを想像すると、引き金を減らせます。
変えるのは犬でなく、人の間の取り方
ここが、この記事のいちばん伝えたいところです。サインに気づいたとき、犬を「サインを出さないように」しつけるのではありません。サインを出させている状況や、人の近づき方のほうを変えます。近づくのを少し待つ、手を出すのをやめる、距離をとる――こうした人の側の一手で、犬は警報を上の段へ上げずにすみます。犬に「がまんさせる」のではなく、人が先に間を取る。これが、サインを読むことを、実際の役に立てる分かれ目です。次の章で、その具体的な動き方を整理します。
サインを見たら、飼い主はどうするか
サインに気づいたら、やることはシンプルです。むずかしいテクニックはいりません。共通するのは、「その子の負担を、今すぐ少し下げる」ことです。
まず、間を取る ― 距離と時間
いちばん確実なのは、犬と、苦手なもののあいだに、距離と時間をつくることです。苦手な相手や物から少し離れる、近づけるのをやめて待つ、その場からいったん引く。犬が自分で落ち着ける場所(クレートやベッドなど、安心できる居場所)へ行けるようにしておくのも、間の取り方の一つです。犬が離れようとしているのに、無理に近づけたり、抱き上げて逃げ場をなくしたりしないようにします。犬にとって「いやなら離れてよい」という選択肢があること自体が、安心につながります。距離をとるのは、甘やかしではありません。犬が自分で気持ちを立て直すための、いちばん基本の手当てです。
引き金を外す・要求を下げる
次に、積み重なっている引き金を、一つでも減らします。テレビの音を下げる、来客に少し待ってもらう、なでる手をいったん止める、といった小さな調整です。前の章で見たように、ストレスは積み重なって閾値を越えます。だから、今その場で外せる刺激を外すだけでも、あふれる前に引き戻せます。あわせて、犬に求めることのハードルも下げます。混乱している犬に、いつものように「おすわり」を何度も求めるより、まずは落ち着ける状況をつくるほうが先です。余裕が戻ってから、できることをお願いします。
力で押さえる・見つめて叱るは使わない
やってはいけないのは、こわがっている犬を、力でねじ伏せたり、仰向けに押さえつけたり、正面から見つめて叱ったりすることです。AVSABは、すべての訓練で報酬にもとづく方法を支持し、痛みや威嚇、力ずくのあつかい(大声・見つめること・押さえつけなど)は使わないよう述べています。こうした嫌悪的なやり方は、不安や恐怖からくる攻撃、回避、あきらめ(学習性無力感)を招くとしています。犬が発しているのは「今つらい」という警報です。それを罰で黙らせても、つらさそのものは消えません。落ち着かせるためにすることは、罰ではなく、間を取り、引き金を外すことです。なお、「人が犬に向かってあくびを返すと落ち着く」といった話も見かけますが、これは確かめられた方法ではありません。人にできるのは、サインを尊重して、その子の負担を下げることです。ふだんの接し方や教え方の土台は、犬のしつけの手法にまとめています。
サインを無視すると ― 回避・うなり・噛みつきのはしご
早期警報の大切さは、それを無視したり、罰したりしたときに何が起きるかを知ると、はっきりします。ここは、安全に直結する話です。
下の段を飛ばして、いきなり噛むようになる
「攻撃のはしご」を示したシェパードは、犬が下のほうの段(まばたきや鼻なめなど)でうったえても、それがくり返し受け止められなかったり、まちがった受け取られ方をしたりすると、犬はやがて、その下の段を省くことを学んでしまう、と説明しています。つまり、「あくびをしても、目をそらしても、離れようとしても、いつも聞いてもらえなかった」という経験が重なると、犬は前ぶれのサインを出さずに、いきなり上の段――うなりや噛みつき――から始めるようになります。「うちの子は、何の前ぶれもなく突然噛んだ」と言われることがありますが、その多くは、下の段のサインが以前から出ていて、それが受け止められてこなかった結果です。早期警報を見て動くことは、この「前ぶれのない犬」をつくらないためでもあります。
うなりを罰しない ― 警告を消してしまう
とくに気をつけたいのが、うなりへの向き合い方です。うなりは、犬が「これ以上はやめて」と出している、噛む一歩手前の警告です。ここで叱って、うなりだけをやめさせると、警告が消えて、次からは警告なしで噛むようになりかねません。AVSABも、罰にもとづくやり方の帰結として、恐怖からくる攻撃が増えることを挙げています。うなったこと自体を罰するのではなく、「なぜうなるほど追いつめられているのか」を見て、その状況を変えます。うなりは、消すべき悪い癖ではなく、ありがたい早期警報です。
早く気づくほど、軽くすむ ― 各テーマへ
サインは、下の段で気づくほど、軽い対応で落ち着きます。逆に、上の段まで上がってからでは、犬も人も大変になります。この「早く気づいて、人が先に動く」考え方は、具体的な困りごとにもそのまま使えます。吠えの前ぶれを読んで先に動く向き合い方は犬はなぜ吠えるのかに、噛む前のサインを読んで噛んでよいものへ向ける方法は子犬の甘噛み・噛み癖に、留守番のときの不安のサインと環境づくりはトイプードルの留守番にまとめています。子犬の時期に、こわい初めての経験をさせずに慣らしていく土台は、子犬の社会化で扱っています。
場面で読む ― 板橋のマンション暮らしの日常で
サインの読み方と対応は、実際の生活の場面に当てはめると、使いやすくなります。板橋区に多い集合住宅・共働きの暮らしでよくある場面から、いくつか整理します。
動物病院 ― こわい場所にしない
動物病院は、多くの犬にとって、においや処置がストレスになりやすい場所です。待合室で、しきりに舌なめずりをする、あくびをくり返す、しっぽを巻いて体を低くする――こうしたサインが出ていたら、その子はもう余裕が減っています。VCA動物病院は、病院への恐怖を減らすには、事前に少しずつ慣らしていくこと、そして、進み方は速すぎるより遅すぎるほうがよく、急ぎすぎるとかえって逆効果になる、と説明しています。診察を待つあいだは、混み合う入り口から少し離れて待たせてもらう、床にマットを敷いて足元を安定させる、といった間の取り方が役立ちます。健康なときから、病院で診てもらう練習を、おやつと一緒に少しずつ重ねておくと、いざというときに落ち着きやすくなります。
来客・共用部・エレベーター
板橋区の住まいの未来ビジョン2025 住宅白書(平成25年住宅・土地統計調査)によれば、板橋区で人が住んでいる住宅のうち、共同住宅(マンションやアパートなど)は78.3パーセントを占めています。集合住宅では、来客や、共用部・エレベーターで人や犬とすれちがう場面が、毎日のように起きます。狭いエレベーターで、知らない人と急に近い距離になると、犬は逃げ場がなく、サインを出しやすくなります。犬が体を低くする、顔をそむける、出口のほうを向く、といった様子が出たら、無理に「あいさつ」をさせず、人と犬のあいだに立って距離をつくります。来客のときも、玄関でいきなり犬に近づいてもらうのではなく、少し待ってもらい、犬が自分から近づける状況をつくると、落ち着いて迎えられます。集合住宅で犬と暮らす基本は、マンションで犬と暮らすにまとめています。
子どもとの接触 ― 監督と、犬の逃げ場
子どもと犬の組み合わせは、とくに気をつけたい場面です。子どもは、犬にとって、動きが速く、正面から近づき、抱きついたり顔を近づけたりしやすい相手です。米国獣医師会(AVMA)は、赤ちゃんや小さな子どもを、犬と二人きりにしてはいけない、そして、犬の行動をよく見ること、とうったえています。犬が、子どもがなでている最中にあくびをする、舌なめずりをする、白目が見えている(目を見開いて白目が多く見える状態)、体をこわばらせる――こうしたサインが出たら、それは「もう少し離れて」という早期警報です。大人が間に入って、犬に逃げ場をつくります。子どもには、犬が休んでいるときや食べているときはそっとしておく、追いかけない、といったことを、日ごろから伝えておきます。
見落としやすい、小型犬・トイプードルのサイン
最後に、小型犬ならではの見落としやすさに触れます。トイプードルのような小型犬は、サインが小さく、速く、そして「かわいさ」にまぎれて見過ごされがちです。
小さく・速いサインを、見過ごさない
体が小さいぶん、舌をちらっと出す、目をすっとそらす、耳をわずかに後ろに倒す、といったサインは、一瞬で終わり、見逃しやすくなります。抱き上げられることが多い小型犬は、地面から離されて逃げ場をなくした状態で、サインを出していることもあります。抱っこ好きに見えても、抱かれた瞬間に体がこわばる、顔をそむける、といった様子が出ていないか、犬の側から見直します。膝の上や腕の中で、犬がかたまっているのは、くつろいでいるのとは違います。また、小型犬は「小さいから」と、知らない人にいきなり抱き上げられたり、次々と手が伸びてきたりと、大型犬なら起きにくい過剰なさわられ方をされがちです。人気者ほど、間を取ってあげる意識が要ります。小さな犬ほど、こちらが意識して、ゆっくり近づき、逃げ場を残すことが大切になります。犬種ごとの特性やお世話のポイントは、板橋区のトイプードルに、迎えたばかりの向き合い方は子犬を迎えた最初の1週間にまとめています。
よくある質問
Q. しっぽを振っている=喜んでいる、で合っていますか?
しっぽを振っている=いつでも喜んでいる、とはかぎりません。シニスカルキらの研究(Current Biology, 2013)では、犬が、右寄りに振られたしっぽと、左寄りに振られたしっぽを見分けていて、左寄りの振りを見たときのほうが、心拍が上がり、不安そうな行動が増えた、と報告されています。振り方の左右で、結びつく情動が違うということです。実際には、しっぽの高さや振りの速さ、体全体のこわばりも合わせて見ます。高く小刻みに振っている、体はかたい、という状態は、喜びよりも緊張や興奮のことがあります。ここでも、一つのしぐさだけで決めず、ほかのサインや状況と合わせて読みます。
Q. あくびは、眠いだけではないのですか?
あくびは、眠いときにも出ますし、緊張したときにも出ます。VCA動物病院は、犬は疲れているときや退屈なときにあくびをするが、ストレスを感じているときにもあくびをする、と説明しています。見分けるこつは、状況です。眠くもないのに、来客や動物病院、抱っこの最中など、負担のかかる場面であくびが出たら、それは早期警報のほうです。舌なめずりや、目をそらす動きが一緒に出ていれば、なおさらです。眠いあくびか、緊張のあくびかは、その前後に何が起きているかで読み分けます。
Q. カーミングシグナルは、犬種によって違いますか?
基本のサイン(あくび・舌なめずり・顔をそむける・体を低くする・白目が見えるなど)は、犬種を問わず広く見られます。ただし、見え方には差があります。耳の垂れた犬種は耳のサインが読みにくく、毛の多い犬種は表情が分かりにくく、しっぽが短い犬種はしっぽのサインが出しにくい、といったことがあります。トイプードルのように毛が豊かな犬種では、細かな表情が毛にまぎれることもあります。その子は、緊張したときにどこにサインが出やすいかを、ふだんの落ち着いた様子と見くらべて、つかんでおくとよいです。
Q. どこまで自分で対応し、いつ専門家に相談すべきですか?
ふだんの生活のなかで、サインに気づいて間を取る、引き金を外す、というところまでは、ご家庭でできます。一方で、特定のものにいつも強くこわがる、留守番のたびにひどく取り乱す、うなりや噛みつきが出ている、といったときは、自己判断で抱えこまず、専門家に相談してください。しつけや行動の困りごとは、トレーニングの専門家に。強い不安やこわがり、攻撃が続く場合は、動物の行動を専門にみる獣医師(獣医行動科)が相談先です。板橋区を中心に出張型のドッグトレーニングを行うK9 Harmonyでは、ご自宅にうかがって、その子のサインの読み方や、暮らしに合わせた向き合い方を一緒に組み立てます。ご相談はご予約・お問い合わせからどうぞ。
まとめ
カーミングシグナルは、「このしぐさは、この意味」という辞書ではありません。あくびや舌なめずり、顔をそむける動きは、犬のストレスが限界に近づいたことを知らせる、いちばん早い警報です。一つずつ翻訳するのではなく、いくつのサインが、どんな状況で続けて出ているかを、積み重なりで読みます。そして、いちばん見落とされやすい引き金は、人自身の関わり方――かがみこむ、見つめる、頭上から手をのばす――にあります。読むだけでなく、間を取る、引き金を外す、という人の側の一手で、犬は警報を上の段へ上げずにすみます。サインを罰で黙らせると、前ぶれのない噛みつきを生みかねません。早く気づいて、人が先に動く。これが、吠えや噛みつきを、起きる前に減らすいちばんの近道です。強い不安やこわがりが続くときは、かかりつけの動物病院や獣医行動科へ。サインの読み方や暮らしに合わせた向き合い方は、板橋で出張トレーニングを行うK9 Harmonyにご相談ください。シニア期に見え方や聞こえ方が変わった愛犬への伝え方はシニア犬との暮らしにまとめています。犬の記憶と学習の仕組みは犬の記憶の仕組みにまとめています。子どもが犬のサインを読み、安全に暮らす設計は子どもと犬の暮らしにまとめています。
参考情報
この記事は、次の獣医団体・獣医行動学の一次情報と、査読論文、行政の公式情報をもとに作成しました(いずれも2026年7月に参照)。カーミングシグナルの科学的な検証は途上であり、本記事は「辞書」ではなく「手がかり」として読む立場で書いています。犬の強い不安・こわがり・攻撃など、専門的な判断が必要なことは、かかりつけの動物病院や、動物の行動を専門にみる獣医師(獣医行動科)に相談してください。
出典一覧(クリックで開く)
- Turid Rugaas「On Talking Terms With Dogs: Calming Signals」(2nd ed., Dogwise Publishing, 2006)※カーミングシグナルの提唱・実務書(原著書籍)。
- Mariti C. et al.「Analysis of the intraspecific visual communication in the domestic dog (Canis familiaris): A pilot study on the case of calming signals」Journal of Veterinary Behavior(初期の研究) https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1558787816302465(2026年7月参照)
- Kendal Shepherd「The Canine Ladder of Aggression」(BSAVA Manual of Canine and Feline Behavioural Medicine 由来の解説) https://veteriankey.com/the-ladder-of-aggression/(2026年7月参照)
- American Veterinary Society of Animal Behavior (AVSAB)「Position Statement on Humane Dog Training」(2021) https://avsab.org/wp-content/uploads/2021/08/AVSAB-Humane-Dog-Training-Position-Statement-2021.pdf(2026年7月参照)
- VCA Animal Hospitals「Signs Your Dog is Stressed and How to Relieve It」 https://vcahospitals.com/know-your-pet/signs-your-dog-is-stressed-and-how-to-relieve-it(2026年7月参照)
- アメリカンケネルクラブ(AKC)「What Is Trigger Stacking? How to Handle an Overly Stressed Dog」 https://www.akc.org/expert-advice/training/how-to-avoid-trigger-stacking-in-dogs/(2026年7月参照)
- Preventive Vet「How Human Body Language Can Affect Dog Behavior」 https://www.preventivevet.com/dogs/how-your-body-language-affects-your-dog(2026年7月参照)
- Siniscalchi M., Lusito R., Vallortigara G., Quaranta A.「Seeing left- or right-asymmetric tail wagging produces different emotional responses in dogs」Current Biology 23(22):2279-2282(2013) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24184108/(2026年7月参照)
- American Veterinary Medical Association (AVMA)「Preventing dog bites」 https://www.avma.org/resources-tools/pet-owners/dog-bite-prevention(2026年7月参照)
- VCA Animal Hospitals「Reducing Fear of Veterinary Visits for Dogs」 https://vcahospitals.com/know-your-pet/reducing-fear-of-veterinary-visits-for-dogs(2026年7月参照)
- 板橋区「住まいの未来ビジョン2025 住宅白書」(平成25年住宅・土地統計調査) https://www.city.itabashi.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/122/attach_90477_11.pdf(2026年7月参照)